
モノの溢れる現代社会と、モノを大切にする時代を生きてきた親世代。現実と価値観の間に大きなずれがあるために、「もったいない」と溜め込んだモノに家の中を占領され、かろうじて空いているわずかなスペースで細々と暮らす高齢者が増えています。
カオスと化した家に住み続ける弊害は、ただ単に暮らしにくいというだけではありません。床に放置された障害物は転倒の原因となり、使いにくい家は親から自活する気力を奪うのです。
これではいけないと考えた子ども世代が、実家の片づけを決行すると、今度は、家にあるモノを捨てるか捨てないかで揉めることに。中には、そのことがきっかけで親子関係に亀裂が生じてしまうケースもあり、実家の片づけは一つの社会問題にまで発展しています。
捨てることだけで進める実家の片づけとその弊害
そこで、さまざまな指南書が実家の片づけのテクニックを提案しています。
「捨てる」と言わずに「片づける」と言ってみる、「孫が遊べるスペースを作りたい」と孫を引き合いに出し納得させる、3年間着ていなかった服は捨てるというルールを決める設ける…などです。
ですが、それらの根底にあるのは「捨てさせる」ことであり、もったいないと感じている親世代の気持ちとは対極にあります。たとえば、持っているモノの中からどれを残すか選び出すという片づけの進め方は、一度すべてを捨てると仮定し、その中から改めて拾い出すというのと同じ。捨てることが前提になっています。
指南書には、親の気持ちに寄り添いながら片づけを進めましょうとあります。ところが、手元に残したがる親世代の本心は、「捨てたくない」。捨てさせることで片づけを進めようとする限り、寄り添うことはできません。上述のようなテクニックを駆使し、寄り添う風を装っているだけだからです。
何十年と「いつか使えるかも」と取っておくことを当たり前に生きてきた人にとって、取っておいたモノを捨てるという作業は、身を切られるようにつらい作業。まして高齢ともなれば、その作業が人生の後始末のように感じられたとしても無理はありません。
そのため、家は片づいたものの、肝心の本人がすっかり気落ちしてしまう、「捨てさせる」ことを敏感に感じ取った親が、子どもと揉めてしまうなど、親のためにしたはずの片づけが、結果的にあだとなってしまうのです。
繰り返しになりますが、捨てることが前提の片づけでは、「もったいない」と思う親の気持ちに真に寄り添えることはありません。だからうまくいかないのです。
親の「もったいない」に寄り添える片づけとは
そこで、親の「もったいない」という気持ちに、心から寄り添って片づけを進めてみてはどうでしょう。
「もったいない」と溜め込んだモノは、「いつか使えるかも」という気持ちで手元に置いています。ですが実際は、手元に残したことで安心してしまい、いつか使おうと思ったことなどすっかり忘れ、ただ置いていただけ。子どもに「これ、使わないのなら捨てていい?」と聞かれるまでは、その存在すら忘れていた。そんなモノがほとんどです。
ところが、そう言われたことで「いつか使えるかも」という思いが再燃。そして、「使うから取っておいて」「使わなかったじゃない」「これから使うから」「捨てなよ」と、もめ事の火種になってしまうのです。
そこで、この「いつか使うかも」という気持ちに、一度寄り添ってみます。再燃したその思いに共感してみるのです。
「これは何に使えそう?」「どんなチャンスに活かせそう?」とアイデアを聞いてあげてください。ポイントは、否定的にではなく肯定的に尋ねること。非難めいた聞き方ではなく、興味深めに聞いてあげることです。
予備のために取っておくのか、誰かにあげるのか、本来の用途とはまったく別の使い方をするのか、それを使って何かを作り出すのか。もし、そのアイデアに問題点があれば、解決方法を一緒に考えてあげましょう。あくまで活かそうという立場に立って、「いつか使うかも」の気持ちにとことん寄り添うのです。
そして、使うアイデアが浮かばなかったモノにだけ、処分を促していきます。活用できたイメージが湧かなければ、取っておいた本人も「これは使えない」と納得ができるはず。万が一、それでも納得できないのであれば、期限を設けた保管箱に入れて一旦保留。期限までにアイデアを考えておいてと伝えます。
活かす方法が思いついたモノは、その目的に沿って保管してください。使うイメージをカテゴリーのネーミングに込め、目立つようにラベルを貼れば、活かす可能性は高まります。保管期限を決め、その間に活かされることがなかったら、そのタイミングで処分を促してみましょう。
実はこの、「一回活かすことを考える」という工程が大切。それにより本人が満足できるのです。
大切なのは活かすことで生まれる充足感

使わないモノを処分だけで進める片づけ方では、そのモノに対して不完全燃焼な気持ちが残るため、それが罪悪感や喪失感につながります。それに対し、そのモノが持つ先々の可能性まで一度考えていれば、考え尽した感があるため手放す決心がつきやすく、そこには後悔が生まれません。
モノを大切にしたい世代に寄り添って片づけるというのは、活かすことを一緒に考え充足感を感じてもらうこと。手を変え品を変え、徐々に捨てさせる方向に気持ちを切り替えさせることではありません。
