アンチエイジングに必要なもう一つの柱
シニアになると、気になってくるのがアンチエイジング。その目的は、美容から体力増進までさまざまですが、誰もが無関心でいられないのは健康維持と認知症予防ではないでしょうか。見た目が衰えたところで暮らしが不自由になることはありませんが、健康を害する、体力が衰える、気力がなくなる、理解ができなくなるなどの身体能力の低下は、生活に支障をきたし暮らしが立ち行かなくなる恐れが出てくるからです。
いくつになってもこれまで通り、他人に迷惑をかけず自力と自己決定により暮らすことが多くの人の願いであり、その生活こそが人間の尊厳を保ち、生活の質(QOL)を守ることにつながっていきます。それゆえに、「バランスのとれた食事」「適度な運動」「脳トレ」などを積極的に取り入れ、老化を少しでも遅らせようと努めるのです。
その三つの取り組みが、一般的に考えられているアンチエイジングの代表ともいえる三本柱ですが、是非そこに加えて欲しいもう一本の柱があります。それは「住環境整備」。その必要性はまだあまり認知されていませんが、実はアンチエイジングの鍵をにぎる重要なキーワードとなるのです。
ポイントは、「身体能力」ではなく「自活能力」
食事、運動、脳トレなどの取り組みは、自らの身体能力を維持向上させることが狙いです。ですが、アンチエイジングの最終目標は、実はそこではありません。前述のとおり、万人の願いは可能な限りそれまでと同じ生活を自分の力で送ることです。ということは、身体能力はアンチエイジングのための手段であって目的ではないということ。その身体能力により「自活する」ことこそが、アンチエイジングの真の目的であり最終目標だといえるでしょう。つまり、目指すべきは自活能力の維持向上なのです。
ところが、努力の甲斐あって身体能力が維持できているのにもかかわらず、自活がかなわない場合があります。
その理由は、住環境の不適合。不適合とは、バリアフリー化がされていないなど、建物自体の設備が不十分というケースもありますが、家の中が雑然としている、モノであふれているなどのケースも含まれます。「モノが使いやすく配置されていない」「どこに何があるかわからない」「床が障害物だらけ」など、些細なことと思われがちな家の中の不備も、高齢者の暮らしにおいては、安全を脅かし動きを妨げる大きな障壁となります。
特に、長いこと住んでいる家の場合、住人は加齢に応じた改善の必要性に気がつかず、そのままの状態で暮らし続けてしまいます。その結果、身体能力にさほど問題がなくても、家の中で動くことが徐々に困難となり、やがて動かなくなります。それがさらなる身体機能低下を招き、ますます動けなくなり動かなくなるという負のスパイラルに陥ります。最終的には生活不活発病(廃用症候群)発症を引き起こすケースさえ出てくるのです。
生活不活発病とは、重篤化すると寝たきりになってしまう可能性もある病。健康に問題がなかった人が、家を片づけていなかっただけで寝たきりになってしまう危険があるとすれば、できたら体力のある早いうちに、家の中を高齢者の特性に適した動きやすい環境に整え、自らで動けなくなることを防ぐ準備をしておいたほうが賢明といえるでしょう。動けなくなったあとに待っている暮らしは、アンチエイジングの目的からは程遠い、自活と自己決定のない不自由な生活だからです。
こんなにある!住環境整備から生まれる効果
住環境整備の効果は、生活不活発病の予防だけにとどまりません。
軽やかに動ける家事動線は、家事の負担を軽くし自活を促します。家事は頭、手指、身体全体をフルに使うため、それこそがアンチエイジング。家事が楽になれば時間や気持ちに余裕が生まれ、さらに活動が増えていきます。活動が増えれば交友関係が広がり、それにより世界が広がります。広がった世界は好奇心を刺激し、明日への生きる活力へとつながっていきます。その生きる活力こそが、おそらく最も効果的で最強のアンチエイジングといえるのでしょう。